方言「だら」の意味!地域ごとの使い方|静岡/富山/石川/北海道
独特の語感で有名な方言の代表選手といえば、「だら」を挙げる人も多いのではないでしょうか。「だら」には、地域ごとに様々な意味や使い方があります。静岡とその近くの愛知県三河地方、富山、石川、北海道と、広く使われている方言「だら」の魅力に迫ってみたいと思います。
目次
面白い方言「だら」を使う地域は?
「だら」という方言を聞いたことはありませんか?「だら」は、面白い方言の代表格として、広く知られています。日本では、地域ごとに細かく分類すると、16種類の方言があるとされています。その中で、「だら」という放言は、北海道から南は山陰地方まで広く使われています。その中でも特に静岡、富山、愛知、長野、石川、北海道などで、幅広く、日常的に使用されている方言です。
「だら」の意味や使い方を調べてみると、たった二文字の方言「だら」の多様性に驚くことばかりです。このページでは、方言「だら」の意味や由来を紹介するとともに、代表的に使われている静岡、富山、愛知(三河地方で使われる三河弁)、長野、石川、北海道を例に、方言「だら」について詳しく解説します。
方言「だら」の意味と由来
まず、方言「だら」の意味と由来について考えてみましょう。
方言「だら」の意味
方言「だら」には、実に幅広い意味があります。このサイト上で解説するように、地域によってかなり違っています。アホ、馬鹿を意味する場合、「~でしょ?」と同意や推量を表す場合、小銭を意味する場合、その人やあの人といった意味を持つ場合など、様々な使い方があります。
方言「だら」の由来
方言「だら」は、いったい、いつごろから、どのように、方言として使われていったのか、その由来について考えてみます。正確で詳細なルーツは、言語学者や民俗学者の文献にゆだねる必要がありますが、まずは知り得る限りの情報をたどってみましょう。
まず、「馬鹿、アホ」を意味する方言「だら」の由来について考えてみます。「だら」は、関西で「このアホンダラ!」という表現が知られているように、北陸から関西まで広い地域で使用されているのですが、実は、この「あほんだら」の「だら」には、次のような故事が関係しています。
「あほんだら」は「阿呆陀羅経」(あほだらきょう)の略です。阿呆陀羅経とは、江戸時代中後期に願人坊主といわれた大道芸人たちが、江戸や上方の都市の街頭で流行らせた民謡つまり流行歌のことです。世間一般の話題や時事風刺を交えながら、俗謡の節にのせて語ったもので、庶民の間で広まったとされています。「ないない尽くし」「諸物価値上がり」などの演目があり、中には政治風刺が含まれるものもありました。
軽妙な語り口で、早口でリズミカルに語るのが特徴で、日本流のラップだという方もいます。例えば、立川談志や小沢昭一など、一昔前に活躍した日本の芸人が自らの演目に取り入れたこともあります。
いろいろ文献を調べてみたところ、実際の仏教用語とは特に深い関係はないようで、あくまでも風刺のために作られた造語だと考えられます。つまり、「あほだら」は、身勝手で都合のいいことだけしか考えていない、という意味を持っており、これがそういう人のことを「あほだら」という意味で呼ぶようになった、と考えられ、それを短くした「だら」も、そのような意味を持つ方言として使われるようになった、と理解できます。
方言「だら」の静岡県での意味と使い方
静岡県では、「だら」が代表的な方言として、静岡の全県共通で幅広い年代で使われています。方言というと昔の人が使うイメージがありますが、静岡では、若い人でも普通に使われるメジャーな方言として、「だら」が定着しています。方言「だら」の静岡県での意味と使い方について整理しましょう。
静岡での方言「だら」の意味
静岡での方言「だら」は、相手に対して同意を求める場合や、おそらくこうではないだろうか、というように、推量の意味で使われます。
だら | 「~でしょう?」「~ですよね?」 |
静岡での方言「だら」の使い方《例文紹介》
静岡の方に、このような形で問題の答えについて質問されたら、方言「だら」の意味を知らないとちょっと戸惑ってしまうかもしれません。でも、かわいらしい雰囲気があるので、思わず答えを教えてあげたくなるかもしれません。
この答えで、正しいだら? | この答えで正しいんですよね? |
静岡での方言「だら」のその他の意味と使い方
面白いのは、静岡では、年配の方と、若者では、方言としての使い方が違うという点で、もともとは、「だら」よりも「ずら」がメジャーな方言だったようです。
静岡の年配の方は今でも「ずら」を方言として使います。この「ずら」が変化して、静岡の若者の間では方言として「だら」を使うのが普通なのだそうです。「ずら」よりも「だら」の方が、もっとソフトで、かわいらしい印象があります。
面白い方言の言葉遊びもある!
面白い方言の言葉遊びの代表例として、次のようなものがあります。
だらだらやってんだら? | だらだらやってんじゃないの? |
よその方言と組み合わせたバリエーションとして、たとえばこのようなものが考えられます。
あれだら、だらだらやってんだら? | あの人、だらだらやってんじゃないの? |
方言「だら」の富山県での意味と使い方
富山県でも、「だら」は有名な方言です。その意味は、静岡県とは全く異なっています。一体どのような意味なのでしょうか。そして、どのような使い方がされているのでしょうか。
富山県での「だら」の意味
けっこうきつい意味に受け取れますが、実は、富山で使う方言「だら」には、そんなにマイナスの意味はなく、本当に頭が悪く、救いようがない、というニュアンスではありません。むしろ、富山では、その人の行動や言動に対する、ちょっとした親しみを込めて、突っ込みを入れるような、愛情を込めた温かみのある意味で使われる方言として知られています。
だら | 愚か者、馬鹿、あほ |
富山での方言「だら」の使い方《例文紹介》
もっと強調したいときは、「ぶち」または「ぶつ」を付け加えます。
「あんたら、本当に、どうしようもないアホじゃないの」というニュアンスを出したい場合は、「あんた だらぶつ(ぶち) ないがけ!」というように使います。
「だら」は、面と向かって厳しく叱りつけるのではなく、「あほやなあ」と、ちょっと親しみを込めて声をかけるような、そんな感じで使われる方言だと覚えておきましょう。たとえば「お前、だらけ?」は、「お前、あほやなあ」というように使います。
なお、富山の知り合いに「だらこくな!」(「馬鹿なこというな!」)とすごまれても、元々が温かみのある方言なので、あまり怯えなくても大丈夫です。
あんた、だらん ないがけ! | あんたら、本当に、どうしようもないアホじゃないの! |
方言「だら」の石川県での意味と使い方
石川県では方言「だら」はどのような意味で使われるのでしょうか。そしてどのような使い方があるのでしょうか。
石川での方言「だら」の意味
方言「だら」は、富山県の隣の石川県でも、富山と同じような意味で使われています。江戸時代では、石川県と富山県の一部が加賀藩の直轄領だったことから、共通する方言が残っており、「だら」もその一つといわれています。罵倒するよりも、親しみを込めて使われる方言である点で、富山県と共通しています。
だら | 馬鹿、あほ |
石川での方言「だら」の使い方《例文紹介》
石川では方言「だら」を、相手への助言や軽めの苦言といったニュアンスでよく使います。おかしなジョークを言う人には、「えーな、だらぶち!(えーい、大馬鹿野郎!」というように使いますし、ぜんぜん面白くなくてつまらないことについては、「だらくさい(馬鹿くさい、面倒くさい)」と突っ込んだりします。
さっぱり人のいうことを聞かない人や、いたずらばかりしている人には「だら!何やっとるげんて!(馬鹿、何やってるの!)と叱ったりします。
将来のことを考えず遊んでばかりいる人には、親や学校の先生は、このような言い方で注意します。
いつまでも だらなこと しとれんげんさけ 将来のことも考えや | いつまでも馬鹿なことやってられないんだから、将来のことも考えなさい |
方言「だら」の長野県での意味と使い方
長野県でも、方言「だら」が使われています。長野県は、県域が広く、群馬県、埼玉県、山梨県、静岡県、愛知県、岐阜県、富山県、そして新潟県と8つの県と接しており、「日本で最も多くの都道府県と隣接する県」なのです。このため、独自の文化を持つことで有名で、多彩な方言があることでも知られています。
長野での方言「だら」の意味
長野でも、「だら」は、語尾につけて「~でしょ?」「~ですよね?」という意味で使われており、愛知や静岡と共通しています。すでにご紹介したように、両県と長野は隣接しているので、同じ意味で使われてもおかしくはありません。
~だら? | 「~ですよね?」「~だよね?」 |
長野での方言「だら」の使い方《例文紹介》
長野では、特に南信地域つまり伊那郡地方で、「だら」をよく使います。「だら」の他にも静岡や愛知の影響を受けている方言がいくつもあるそうですが、「だら」は南信以外の地域ではあまり使われません。
お前、あの女の子のこと好きだら? | お前、あの女の子のこと好きだよね? |
方言「だら」の愛知県での意味と使い方
愛知県では方言「だら」はどのような意味で使われるのでしょうか。そしてどのような使い方があるのでしょうか。
愛知での方言「だら」の意味
愛知での方言「だら」の意味は、静岡と共通しています。この意味での「だら」の使い方は、愛知県東部の「三河弁」にルーツがあるといわれています。なお、三河弁とは、旧三河国(愛知県東部)で使われている方言です。
三河弁を代表する方言として、よく言われるのが、「じゃん」「だら」「りん」の三つです。このサイトで紹介しているように、「だら」は三河弁だけで使われるものではないのですが、それでも三河弁を話す人たちの間では、頻繁に使われる三河弁の代表格として認知されています。
ネットで三河弁のネタを検索すると、LINEスタンプに三河弁を代表する「じゃん」「だら」「りん」のいろいろなバージョンのスタンプが掲載されています。つまり、これら三つの言葉は三河弁の基本中の基本なのです。
だら | 「~でしょう?」「~ですよね?」 |
愛知での方言「だら」の使い方《例文紹介》
LINEスタンプで使われるくらい、三河弁で「だら」は定着し、愛されている方言です。静岡と共通する、「だら」のかわいらしさや、なんかちょっとホッコリするやわらかさに特徴があります。愛知出身の方で三河出身の方を飲みやデートに誘おうと思ったら、三河弁でこんな感じの言い方を試してみてはどうでしょうか。
仕事もう終わっただら? | 仕事もう終わったよね? |
方言「だら」の北海道での意味と使い方
北海道では、おそらく日本で一番、「だら」を広い意味、多彩に使っている地域ではないでしょうか。北海道で使われる方言「だら」には大きく分けて3つの意味があります。これはたくさんの地方から集まった人々が広大な大地を開拓した歴史を物語るものと考えられます。以下それぞれについて簡単に紹介していきます。
北海道での方言「だら」の意味
北海道は、地理的にも本州から離れており、広大な大地を持っています。だからこそ、方言についても独自の発展を遂げる素地があるといえます。北海道で使われる「だら」の三つの意味は以下の通りです。それぞれ全部意味が違います。
だら | 人 |
ほんだら | それならば、そうならば |
だらせん | 小銭、硬貨 |
広がる「だら」の意味
人という意味での「だら」は、「あれだら」というフレーズで使われます。主に函館で使われている表現で、「あの人」という意味です。
それならば、そうしたならば、という意味での「だら」は、北海道だけではなく東北でも「んだら」「そんだら」等というように使われます。地理的に近いので似ているのかも知れません。
小銭、硬貨という意味での「だら」も良く使われますが、他にも「じゃら」「じゃり」「じぇんこ」という言い方もあります。
北海道での方言「だら」の使い方《例文紹介》
北海道でよく用いられる三つの意味について、どのような使い方があるのでしょうか。それぞれの意味に応じて例文を三つ挙げてみましょう。
人という意味での方言「だら」の使い方
あれだら、まんずふなまずれぇわらしだ! | あの人は、本当にずるがしこいよね! |
あれだら、こんつけでまってる | あの人、スネているよ |
あれだらもぉ、バガの干したえんたもんだ | あの人は、本当にどうしようもないバカだよ |
それならば、そうしたらという意味での方言「だら」の使い方
そんだらもん、スタバにあるべよ | そんなものだったら、スタバにあるんじゃないの |
そんだら、ゴミ投げておいて | そうしたら、ごみ捨てておいて |
そんだらば、この後会うことはねがった | そうしたら、この後会うことはなかった |
小銭、硬貨という意味での方言「だら」の使い方
だら銭貸してけれ | 小銭貸してください |
だら銭ばかりしかねえ | 小銭ばかりしかない |
だら銭おっこどした | 小銭落としてしまった |
北海道で方言「だら」が複数の意味を持つようになった理由
北海道で方言「だら」が生まれたのは、北海道の開拓の歴史にヒントがあります。明治に入り、北陸や本州などから大勢の方々が、開拓民や、屯田兵として移住してきたことはあまりに有名です。
そのため、「だら」をはじめ、全国の様々な方言が入り込み、北海道独自の方言として発展を遂げてきたのではないかといわれています。つまり、元々の意味のほか、他の地域にないバリエーションが生まれたのではないかと考えられるのです。
たとえば隣接する東北弁には、北海道と距離が近いせいか、北海道の言葉と類似点が多々あります。「~だっちゃ」(~ですよね)という言葉は、昔はやったアニメ「うる星やつら」で有名になりましたが、これは東北でも広く使われている言葉です。
石川県では若い人が「だら」離れしている!?
ただ、石川県で使われている方言「だら」については、気になる話もあります。ネット上に残っている情報によると、2016年3月1日放送の「仰天コロンブス」のコーナーで、石川県の方言「だら」についての話題が取り上げられました。その際に、石川県で特に10代の若い人の「だら」離れが話題になりました。石川の若者の間では方言「だら」よりも「あほ」の方が浸透しつつあるというのです。
せっかくの温かみのある方言「だら」を、ぜひ石川の若い人たちに受け継いでいってもらいたいものですが、これも時代の流れなのかもしれません。
「だら=あほ、バカ」同じ意味の方言をピックアップ
以上、方言「だら」の様々な意味と例文を、地域ごとに分けて説明してきました。特に気になるのが、「あほ、バカ」という意味で使わわれる方言「だら」です。日本は北から南まで長い国土があり、この意味での方言は「だら」に限られず、地域ごとに様々なバリエーションがあり、とても面白いです。以下の表でピックアップして整理してみました。あなたはいくつ知ってますか?
北海道地方 | 北海道 | はんかくさい |
東北地方 | 青森 | ほんつけなし、ほんじなし |
宮城 | ほんでなす | |
関東地方 | 茨城 | ごしゃっぺ、でれすけ |
栃木 | でれすけ | |
中部地方 | 山梨 | ぬけさく |
岐阜 | たわけ | |
近畿地方 | 大阪 | あほ |
中国地方 | 岡山 | あんごー |
鳥取 | だらず | |
四国地方 | 香川 | ほっこ |
愛媛 | ぽんけ | |
九州・沖縄地方 | 大分 | べかたん |
宮崎 | しちりん | |
沖縄 | ふらー |
方言「だら」の印象は?
ここまで方言「だら」の意味や地域によって違う使われ方、そして奥深いルーツにも踏み込んで調べてみましたが、方言がいかに文化や歴史と関係があるかが、お判りいただけたかと思います。昔は都会で方言を使うと馬鹿にされることもあり、あえて隠すことも珍しくなかったようですが、もったいない気もします。
最近は、関西弁だけでなく、東北や北海道など地方の方言をあえて公共の電波に乗せて発信することで、方言に対する印象も、だいぶ変わってきたと思います。方言は、日本の地方文化の豊かさを象徴するものといってよいのではないでしょうか。「だら」を静岡出身の芸能人がテレビで使っているのをたまにみますが、かえって親しみがわきます。
静岡の人が好きな人に告白するときは、「うちっちのこと 好きだら?」(わたしのこと、好きでしょ?)というそうです。こんな感じで面と向かって言われたらどうでしょうか?標準語で言われるよりもなんか温かく、思わずキュンとしてしまいませんか?
方言「だら」を使った会話を地域の人と楽しもう!
今回は、方言「だら」が使用されている代表的な地域である、静岡、富山、石川、北海道での使用例を参考にご紹介しました。「だら」は地方によってさまざまな意味で使われています。
あまり強くネガティブな意味で「だら」を使うのではなく、どちらかといえば、温かみのある、親しみのある意味で、「だら」が使われていることがお判りいただけたのではないでしょうか。
以前は、地方出身者であることを知られたくないなどの理由で、上京すると、方言を隠して会話する方が多かったように思いますが、最近では、テレビタレントなどの影響で、あえて方言を出す方も増えてきました。
最初に御紹介した地域の方から「だら」を聞くと、ちょっとびっくりするかもしれませんが、「だら」に慣れると温かみのある雰囲気に魅了されると思います。
たとえば、これから静岡、富山、石川、北海道を訪れるとき、または、これらの地方の出身者と話をするときは、思い切って「だら」を使って、会話してみてはいかがでしょうか。
地域の魅力を深く知るきっかけにもなるでしょうし、これらの地方の方々と、もっと仲良くなれると思います。「だら」縛りの会話なんかも楽しそうです。ぜひ試してみてください!