いとおかし(いとをかし)の意味とは?古典で使われた言葉を解説

「いとおかし」とは、古典などでよく見かける言葉ですが、意味は?と言われると明確に答えるのは難しいかと思います。「いとおかし」の正しい表記は「いとをかし」ですが、古典文学ではどのように使われていたのでしょうか?例文を見ながら、その明確な意味を見て行きましょう。

いとおかし(いとをかし)の意味とは?古典で使われた言葉を解説のイメージ

目次

  1. 1「いとおかし」という言葉の意味や使い方を学ぼう
  2. 2「いとおかし」の意味とは?
  3. 3「いとおかし」と「いとをかし」の違い
  4. 4枕草子で使われた「いとをかし」
  5. 5古典で度々使われる「いとをかし」
  6. 6「いとおかし」が使われていたのはこんな時代だった
  7. 7「いとをかし」の意味や使い方を知れば時代が見えてくる!

「いとおかし」という言葉の意味や使い方を学ぼう

学生時代の古典で出てきた記憶がある人が多い「いとおかし」ですが、その意味は?と聞かれると明確に答えることができますか?「枕草子」などでがよく使われてきた言葉ですが、実際どのような使い方をしていたのでしょうか?

「いとおかし」は奥深い言葉

「いとおかし」とは、古典でよくみかける言葉ですが、実は複数の意味があると言います。一つに意味を絞ることができないことから、その言葉の奥深さを感じさせるようです。

実際「いとおかし」の意味は?と聞かれると明確に答えることができない人も居るでしょう。具体的に「いとおかし」とはどのような意味を持った言葉なのか?見て行きたいと思います。

「いとおかし」の意味とは?

「いとおかし」とは、「いと」と「おかし」に分けて考える必要があるようです。それぞれの意味や由来を見て行きましょう。

「いと」の意味

「いと」とは、「とても」「非常に」など後にくる言葉を強調するために使う言葉になります。「いと」は通常「おかし」の前に使われます。「おかし」を強調し、意味を広げる役目を担っています。

「とても」「非常に」以外にも、打ち消す言葉を後に加えることで、「それほどでも」「たいして」という意味を持つ場合もあります。

「おかし」の意味

古典でみかける「おかし」には、どのような意味があるのでしょうか?「おかし」とは美を称賛する時に使われる言葉で、語源は「をこ」にあると言います。「をこ(鳥許)(痴)(尾龍)」は「愚かなもの」と言う意味です。

「おかし」の意味は、「趣がある」「風情がある」「興味がある」「美しい」「愛らしい」などさまざまな意味があるようです。では具体的にその意味を見て行きたいと思います。

「いとおかし」の現代の意味

古典で見られる「いとおかし」ですが、現代の言葉ではどのような意味になるのでしょうか?「いとおかし」と「いと」と「おかし」がくっつくと、「とても趣がある」「とても風情がある」「とても可愛らしい」「とても美しい」などの意味が考えられます。

「いとおかし」を現代言葉に言い換えると・・

古典に出てくる「いとおかし」という言葉の意味を捉えたところで、「いとおかし」を現代語に言い換えると、どのような言葉が当てはまるのでしょうか?

「超やばい」「超かわいい」「マジやば」など日常的に使われている言葉が当てはまります。何かの凄さを表現する時に現代では使う言葉になりますが、平安時代の「いとおかし」と意味合いは同じなのでしょうか?そちらについては徐々に紐解いて行きます。

「いとおかし」の古語での意味

古典で使われる「いとおかし」とはどのような意味を持っているのでしょうか?「おかし」は美しいものや風情があるものに対して使われる言葉ですが、文章の中で使われる場合は前後の言葉によって意味が変わります。

何かを見た際に感動を伝える時に使う言葉ですが、明るい印象を与えるため「明るい知的な美」を表す言葉とされています。では実際の意味を見て行きましょう。

とても趣がある・とても風情がある

「いとおかし」が「枕草子」で使われる場合は、「とても趣がある」「とても風情がある」と言う意味で、使われている場合が多いです。風情を感じさせる物を見た時に、「いとおかし」が使われます。

とても美しい・とても綺麗

美しい物を感じる価値観はそれぞれです。もともと「美」を表す表現と言われる「いとおかし」ですので、一番一般的な意味だったと言えます。

何を美しく感じるかで、その人のセンスや価値観を感じられますので、優雅な平安時代によく使われていたと考えられます。

とても滑稽

「いとおかし」は滑稽な物を見た時に使う場合もあるようです。滑稽な物を見て笑ってしまった時などに、「いとおかし」と言われることもあったそうです。

「とても美しい」という美的な意味で使われるだけでなく、「滑稽で面白い」という意味に使われることもあり、「いとおかし」の言葉の深さを感じさせます。

とても面白い・非常に興味深い

「いとおかし」は「とても面白い」「非常に興味深い」と感じた時に使われることもあります。「面白い」と言っても、興味深い面白さであり、滑稽な物とは意味は違います。興味をそそられる面白さを感じた時に、「いとおかし」と使われていたようです。

とても素晴らしい

こちらも「美」を表す意味ではありますが、見た目の美しさよりももう少し奥深さを感じさせる意味になります。見た目だけでなく、心に訴えてくる美しさを感じた時に「いとおかし」を使う場合もあります。

例えば笛の音色が「とても素晴らしい」など見た目以上に、心に響く美しさを表す場合にも使われていたようです。

「いとおかし」と「いとをかし」の違い

古典で見かける「いとおかし」と「いとをかし」とでは意味は違うのでしょうか?また表記としてはどちらが正しいのでしょうか?

「いとをかし」が正しい

「いとおかし」は「いとをかし」を現代語仮名遣い表記したものです。ですので、「いとおかし」とは古典の言葉ではなく、現代語になります。正しい表記は「いとをかし」の方になります。

枕草子で使われた「いとをかし」

「いとおかし」ではなく「いとをかし」が正しい表記だと話しました。ではここからは、「いとおかし」ではなく、「いとをかし」を使って説明して行きたいと思います。古典で使われた「いとをかし」と言えば、やはり「枕草子」だと思います。

「枕草子」の中で「いとをかし」はどのように使われてきたのか、実際の例文を見ながら説明して行きます。「枕草子」の冒頭を見て行きましょう。

春の「いとをかし」

清少納言の「枕草子」の春から冬までの冒頭を見て行きます。「いとをかし」が使われていない季節もありますが、冒頭の美しさを感じて行きましょう。春の原文です。

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山脈、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきる」

意味は、「春は明け方がいい。だんだん白くなって行く山ぎわが、少し明るくなって、紫がかった雲が、細くたなびいているのが、良い」になります。春には、「いとをかし」は含まれていませんが、春の風情を感じさせる文章になります。

夏の「いとをかし」

続いては夏の原文と、現代語訳を見て行きましょう。ここではしっかりと「いとをかし」の「をかし」が使われますので、その使い方と意味に注目してみましょう。

「夏は夜。月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、一つ二つなどほかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし」

意味を見て行きましょう。「夏は夜がいい。月が輝いている時間帯は言うまでもなく、月が澄んでいない闇の時でも、蛍が多く飛んでいるのがいい。また、たくさん飛んでいなくても蛍が一匹二匹とほのかに飛んでいるのも、趣がある。雨が降っている時も趣がある。

ここでは「をかし」を「趣がある」の意味で使っています。夏の風情を感じさせる美しい文章になっています。

秋の「いとをかし」

続いては秋の原文と現代語訳になります。こちらでは「いとをかし」が使われていますので、意味に注目してみてください。原文からです。

「秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、鳥の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきあらず。」

意味は、「秋は夕暮れがいい。夕日が落ちてきて山の端が近く感じるようになってきた頃に、鳥が巣に帰ろうと、三羽四羽、二羽三羽と飛び急いでる様にさえ心惹かれる。

ましてや雁などが列を作って飛んでる様子は、趣があっていい。日が沈んでから風の音、虫の音などが良いのも言うまでもない。」

こちらの「いとをかし」も「趣がある」と訳されていますが、意味としては「興味深い」と言う意味の方が強いようです。鳥が飛んでいる姿は、興味をそそられる面白があると言う意味です。

冬の「いとをかし」

冬の原文と、現代訳を見て行きましょう。こちらでは「いと」が使われています。古典で特徴的な言葉としては「いとつきづきし」「わろし」などが使われていますので、意味に注目してみましょう。

原文からです。「冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ゆるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになろてわろし。」

意味は、「冬は早朝がいい。雪が積もっている時は言うまでもない。霜がおりて白くなっているのも、またとても寒い時に火を急いでおこして、炭を持ってくるのも冬の朝に大変似つかわしい。

しかし昼になってだんだん温かくなった時に、火桶の火も白い灰になってしまっているのは似つかわしくない。」

「いと」は「とても」と言う意味で使われており、「いとつきづきし」「わろし」などの意味も分かったかと思います。

「枕草子」冒頭以外の例文

「枕草子」の冒頭の春から冬を見て行きました。「いとをかし」が使われている箇所もありました。冒頭以外で「枕草子」の中で使われている「いとをかし」を見て行きましょう。

原文からです。「また、冬の夜いみじう寒きに、埋もれ臥して聞くに、鐘の音の、ただ物の底なるやうに聞ゆる、いとをかし」

現代語訳は、「冬の寒い夜に、横になって聞いている鐘の音が、物の底から鳴っているように聞こえるのが、趣がある」になります。「趣がある」と言う言葉を使っていますが、意味合い的には、心に響く美しさであり、「大変すばらしい」と言う意味になります。

古典で度々使われる「いとをかし」

古典で使われる「いとをかし」を「枕草子」以外で見て行きましょう。「源氏物語」「更級日記」「今昔物語集」の中で「いとをかし」がどのように使われているか見て行きましょう。

源氏物語の「いとをかし」

まずは「源氏物語」の原文から見て行きましょう。「けづることをうるさがり給(たま)へど、をかしの御髪や」になります。意味は、「髪をとかすのを嫌がるけど、美しい御髪ですね」になります。

こちらの「をかし」は「美しい」を意味しており、見た目の「美しさ」を表す「をかし」になります。

更級日記の「いとをかし」

続いては「更級日記」になります。まずは原文からです。「笛をいとをかし吹き澄まして、過ぎぬなり」です。現代語訳は「笛をとても見事に吹き鳴らして、立ち去ってしまったようだ」になります。

こちらで使われている「いとをかし」とは見た目ではなく、奏でる音に対して「とても素晴らしい」と言う意味をこめて使われています。その音の響きが美しく、見事に奏でていることに対して称賛を表した「いとをかし」になります。

今昔物語集の「いとをかし」

「今昔物語集」を見て行きましょう。まずは原文からです。「妻、をかし思ひて、笑ひてやみにけり」になります。現代語訳は、「妻は「滑稽だ」と思って、笑って(夫を責めるのを)やめた」と言う意味になります。

ここでの「をかし」は「滑稽」と言う意味で使われており、滑稽で笑ってしまうと言う「面白さ」を表す「をかし」になっています。

「いとおかし」が使われていたのはこんな時代だった

「いとをかし」は「枕草子」が書かれた時代によく使われていた言葉になります。「枕草子」が書かれたのは平安時代になります。実際には奈良時代でも使われていたようです。

平安時代は、華やかな貴族文化が花咲いた時代です。その生活ぶりは「枕草子」や「源氏物語」で見受けられるかと思います。美的感覚をもっと高めて行こうという風習が高まっており、貴族の中でも特に位が高い人は、特別な屋敷で暮らしていました。

釣殿や美しい渡り廊下があり、それは豪華な暮らしを満喫されておりました。美しい庭園で流れる優雅な時間や、その心の余裕は「いとをかし」にも反映されていたと考えられます。

時代は変わり「いとをかし」の意味も変わっていく

時代は貴族から武士の世界へ移り行き、それに伴い文化も変化を見せて行きます。「いとをかし」と言う言葉も人や風景などの「美しい物」や「風情を感じる物」に対して使っていた言葉ですが、徐々に変化を見せて行きました。

鎌倉時代から室町時代にかけては「いとをかし」は美的な美しさを表すよりも「とても滑稽で面白い」という意味で使われることが多くなって行ったようです。江戸時代になっても「いとをかし」は使われていたと言います。

しかし江戸時代の「いとをかし」は、かつての「風情がある」「趣がある」という使われ方はほぼ見受けられず、滑稽色が強い使われ方のみになって行ったようです。

「いとをかし」の意味や使い方を知れば時代が見えてくる!

古典でよく見てきた「いとをかし」の意味や使い方、実際に古典文学の中でどのように使われてきたのかを見てきました。季節感や美しさを感じさせる言葉で、その優雅さがしっかり感じられたかと思います。

そこに感じさせる人々の美意識は、今も変わらず人の心を豊かにする物だと思います。どんな忙しい日々の中にも美しい物を美しいと感じられる、心の余裕を持ちたいものです。

どんな貧しい時代でも、苦しい状況でも「いとをかし」の美意識を常に持っていれば、心は豊かでいられるのではないかと思います。

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