チンパンジー･猿の握力はどれくらいなの？

チンパンジーやゴリラは恐らくほとんどの動物園で当たり前の様に見ることができます。チンパンジーはしぐさや行動が可愛く、ユニークでどことなく親しみを持って見る人が多いでしょう。

そしてゴリラならその大きな体の持つ迫力と憎めない愛嬌におののきと面白さを感じながら見るのではないでしょうか。ところがチンパンジーやゴリラの握力に注目する機会は案外少ないかもしれません。

言われてみればゴリラの握力が強いというのは誰もが納得するところでしょう。しかし意外なことにチンパンジーの握力も驚きの強さを秘めているのです。果たしてその具体的な強さはどれ位なのでしょうか。

またその強さを持つにいたった理由や進化の経緯についても詳しく迫っていきます。

握力について詳しく語る前にチンパンジーが基本的にどの様な動物なのかを簡単に説明しましょう。チンパンジーは霊長目ヒト科チンパンジー属に分類される類人猿です。もとの分布域は西〜中央アフリカ近辺です。

一般的には人間に一番近いと言われており、その証拠に遺伝子を調べると約99％人間と同じことが判明しています。よって動物の中でも抜群に頭が良く人の言葉を正確に理解したり、人間が行う衣食住の習慣の多くを見よう見まねで行える個体も少なくありません。

人間と同じく昼間に行動し、夜は木の上の巣で休みます。寿命は40〜50年と長く中には60年と書く生きた例もあります。

ユニークで愛嬌溢れるチンパンジーですが、意外なことにかなり獰猛な一面を持ちます。基本的に20頭前後の群れで生活しますが、ほかの群れの子供を殺したり、共食いの性質もあります。人間までもが食用にされた事実さえあるのです。

日本にいると決して珍しくないチンパンジーですが、近年森林伐採や乱獲などにより貴重な命や生活の場が奪われつつあります。その結果「国際自然保護連合」の「絶滅危惧種（EN)」としてレッドリストに名を連ねることとなった希少な存在なのです。

いよいよ本題のチンパンジーの握力の強さについて触れていきましょう。単純に考えてもあれだけ木から木へと自在に動き回れますし、長い時間ぶら下がっていられるわけですから相当の握力があることは想像に難くありません。

しかし具体的にその強さは一体どれくらいなのでしょうか。大人のチンパンジーと子供のチンパンジーに分けて説明していきましょう。

チンパンジーはオスが12〜15年、メスが10〜13年くらいで性成熟をして大人の仲間入りをします。そして大人のチンパンジーの握力は約300kgと言われています。

大人でも身長は大きくて90㎝くらいですから、それで300kgという握力は想像を絶する強さと言えます。

チンパンジーの子供でも握力は70〜80kgと言われています。後述しますが、人間でもこれほどの握力を持つ人はほとんどいません。ちなみにリンゴを手でつぶそうと思えば約70〜80kgの力が必要ですから、チンパンジーの子供の握力とほぼ同じと言えます。

こう考えるとその強さがとてもリアルに感じられるのではないでしょうか。

この驚異的なチンパンジーの握力は一体どの様なメカニズムで生まれているのでしょうか。その強さの理由を4つに分けて具体的に説明しましょう。

人間の筋肉もチンパンジンーの筋肉も筋線維という何千という細い筋細胞が束になってできています。筋線維には大きく分けて速筋と遅筋があります。

速筋は人で言えば陸上の短距離選手が多く持ち合わす一瞬の間に爆発的な力を発揮する筋線維で、乳酸を出しつつ糖を代謝する（解糖系）ことによって急激にエネルギーを作ります。その代わり長時間は持ちません。

遅筋はその逆で長距離選手の体に多く見られ、出した乳酸を瞬時に酸素を使って代謝させ（酸化系）ます。乳酸を溜めないので疲れにくく持久力があるのです。チンパンジーは人間と比べても比較にならないほど多くの速筋を持ちます。

したがって瞬間的にとても大きな力を発揮する能力に長けているというわけです。

チンパンジーは先ほど説明した筋線維が人間と比較するとかなり長いのです。筋線維のリーチが長いことで伸び縮みした時に働く筋肉の強さが人間の倍くらいになると言われています。

例えていうと輪ゴムを一つ親指に引っ掛けて引っ張るのと輪ゴムを２個、３個とつなげて引っ張るのとではリーチに大きな差ができ、それを離すと輪ゴムが元に戻ろうとする力も大きく異なってきます。これと同じ原理と言えるのです。

チンパンジーは筋肉の動きを支配する運動ニューロンが人間に比べると少ないことが分かっています。人間は豊富な運動ニューロンによってより細やかな多種類に及ぶ動きをすることが可能です。

しかしチンパンジーはそこまでの運動ニューロンを持たないために一度に多くの筋線維を使う構造を持ち、よって動きも強くダイナミックになるのです。もちろんこの強さが握力の強さにそのまま直結します

チンパンジーの持つ筋肉の中で握力の筋肉が最も強いと言われています。身の安全を守り、過酷な環境を生き抜いていくためには握力に関連する筋肉の発達が不可欠だったのです。

この強い握力を持つことで自由自在に木の上を動き回ることが出来る様になったわけです。

チンパンジーの握力について詳しいことが分かってくると誰もが頭に浮かぶことがあるでしょう。それは「猿」や「ゴリラ」の握力がどれくらいの強さかということです。早速詳しく調べてみました。

猿と言ってもその数は沢山ありすぎるので、もっとも親しみのある「日本猿」で考えてみましょう。日本猿の握力は約30kgと言われています。この様に聞くとチンパンジーの握力の強さに比べて見劣りします。

しかし日本猿の体重がわずか10㎏ということを考えると、その３倍ですからとてつもない力が働いていると言えます。自分の体重の３倍の握力と考えてみてください。もし100kgの人ならチンパンジーと同じ300㎏ということになります。

まず普通の握力測定器ならメーターが振りきってしまい、計測不可能となってしまいます。やはりチンパンジーと同様に猿も木の上を自由に動き回れなければその身を守ることは出来ません。よって猿にも強い握力が備わっているのです。

ゴリラの握力は地球上の全生物の中で最強と言われています。その強さ約400〜500kgと考えられています。さすがに猿とは体のサイズが違いますし、チンパンジーと比べても大きさの違いは歴然で腕も圧倒的に太いです。

ゴリラの体重はオスなら150〜180kgですから単純に計算すると握力はやはり３倍～４倍近いということになります。やはり人間の体重と握力の比率と比べると桁違いの強さと言えるでしょう。

それでは人間の握力は一体どれ位あるのでしょうか。恐らく多くの人は高校生くらいまでに何度かスポーツテストや体力測定などで握力を測った経験があることでしょう。

もちろんチンパンジーやゴリラの握力は人間と比べると規格外です。いったいその差はどれくらいあるのでしょうか。

成人男性と言ってもその年齢は下は20歳（国によっては18歳）から上は100歳以上にもなりますから当然握力の強さにも開きがあります。世界平均では約45〜50kgとなりますが、もっとも強いのが35〜39歳で約50kgとなります。
　
また日本人の平均は約43〜47kgくらいが目安です。もっとも強いと考えられる35～39歳で約47.6kgくらいになります。世界平均からすると日本人の平均は若干低い様です。

ちなみに握力のギネス世界記録はスウェーデン人の腕相撲チャンピオンのマグナス・サミュエルソン氏が持つ「192kg」です。リンゴを握りつぶすのに70～80kgの力が必要といわれますからその約2.5倍の力です。

成人女性の握力は、世界平均で約25〜30kgくらいです。もっとも強いと考えられるのが30代で約30〜31kgくらいです。そして日本人の平均が約26〜29kgです。30代～40代前半くらいが最も強く、約29〜29.5kg となります。

よって男性はチンパンジーと比べると約6〜8分の1、女性にいたっては約10〜12分の１くらいの強さと言えます。改めてチンパンジーの握力の強さを思い知らされます。

チンパンジーの特徴として握力の強さが大きなキーポイントであることが分かりました。しかしもう少し詳しく見ていくとチンパンジーの手や足には握力意外にも興味深い特長があるとこが分かります。

チンパンジーの手を見ると人間に比べて縦に長いことが分かります。さらに人差し指から小指までの4本の指がスラリと長くなっています。これだけのリーチがあれば木や枝をはじめあらゆる障害物にも対応できるのがよく分かります。

ところが親指だけは驚くほど短いのです。それでも枝など棒状の物を掴むのはほぼ問題ありませんが、一つ弱点となるのが人間が得意とする「つまむ」ことが苦手ということです。人間は親指と人差し指を使って小さなものでもしっかりつまむことが出来ます。

しかしチンパンジーはこれがほとんど出来ません。短い親指と人差し指の外側部分とで挟むようにしか出来ないのです。よって指先を使った細かい作業は人間ほど器用には出来ないのです。

逆に足を見てみると親指が驚くほど長いのが分かります。この長い親指があることで枝の上でもしっかりと踏ん張ることが出来ます。もし人間の足にも長い親指があればさぞかしバランス力が付くことでしょう。

この長い親指を使ってアンバランスな木の上でも素早く移動することが可能なのです。

これだけチンパンジーについて分かってくると直接近くで見て握力の強さや手足の特長を確かめたくなってくるのではないでしょうか。そこでチンパンジーに会えるおすすめスポットを2か所お伝えしていきましょう。

今や国内で最も有名な人気動物園として不動の地位を占める「旭山動物園」ですが、その特徴は「行動展示」です。出来るだけ自然の本来の姿を見せるべく各動物のエリアが工夫して設計されています。

チンパンジーも「チンパンジーの森・チンパンジー館」でのびのびと生活しています。まず目に飛び込んでくるのは高さ16メートルを誇る鉄柱です。そしてたくさんのロープを張り巡らせて見事にチンパンジーの故郷アフリカの森を再現しているのです。

たくさんの遊具を前にチンパンジーたちは縦横無尽に遊び回ります。

そしてもう一つの見せ場は「スカイブリッジ」という地上5メートルにある空中トンネルです。この観察用の透明なトンネルに入ればそこにやって来たチンパンジーの体の細部までを至近距離でじっくり観察することが出来るのです。

ほかに屋内放飼場でもロープでターザンのように遊ぶ姿やジャングルジムではしゃぐ様子がとても近くで見ることが出来るので、じっくり観察したい人にはおすすめです。

所在地　北海道旭川市東旭川町倉沼

日立市かみね動物園は客と動物の距離がとても近く小さな子供に大人気の動物園です。動物によっては触れあうことも出来るので満足度が大きいと言えます。毎日「もぐもぐタイム」がありペンギンに魚をあげたり、キリンにも葉っぱを直接あげられるという斬新さが売りです。

そしてチンパンジーのもぐもぐタイム（13時～）はわくわくドームという透明なカプセルから目の前でチンパンジーがおやつを食べている様子が見られます。

所在地　　茨城県日立市宮田町5丁目2-22

恐らく日本で一番有名なチンパンジーと言えば『志村動物園』というTV番組で志村けんとまるで家族のように一心同体の仲を築いた「パン君」ではないでしょうか。

小さなときから生活の一部を共にすることにより志村園長をまるで自分の親か友達のように慕うようになりました。園長がすることは全て真似ます。食べること、飲むことは当然ですが、自ら着替えて犬を散歩させたり、買い物をしたりとまるで人間の子供の様でした。

言葉の意味もかなり深いところまで理解して言うことを良く聞いていました。だからこそ別れの時は辛そうでしたし、久しぶりに会うと大喜びで飛びついていました。

記事の前半でチンパンジーが人さえも食べることがあると書きましたが、およそ志村動物園を観ている限りそのような獰猛さは微塵も感じさせませんでした。

魚心あれば水心と言いますが、人間がチンパンジーを尊重し温かい心を持って接すれば決していたずらに牙をむくようなことはないと考えられます。もちろん300kgという規格外の握力も暴力に使われることは考えにくいのです。