廓言葉(廓詞)一覧!花魁のありんす言葉を紹介

時代劇や時代小説、最近ではアニメやゲームにも登場する廓言葉。廓言葉は、独特のリズムと響きを持っています。花魁が使っていた廓言葉は、ありんす言葉とも呼ばれます。廓言葉の成り立ちから、廓言葉の意味や使い方、今に引き継がれる廓言葉など、廓言葉の魅力をご紹介します。

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目次

  1. 1ちょっと使ってみたくなる「廓言葉」
  2. 2そもそも「廓言葉(くるわことば)」とは?
  3. 3太夫・花魁・遊女とは
  4. 4花魁や遊女が廓言葉を使う理由
  5. 5廓言葉を現代の言葉に変換
  6. 6現代でも使われている廓言葉
  7. 7現代では意味が違う廓言葉
  8. 8【番外編】遊女が使っていた隠語
  9. 9廓言葉の魅力

ちょっと使ってみたくなる「廓言葉」

優雅で非日常的な廓言葉。廓詞とも書きます。江戸時代の話し言葉の一つですが、現代でも映画や小説、漫画やゲームなど、エンターテインメントの世界では、よく耳にします。日本語でありながら異国の言葉のようでもあり、一度聞いたら忘れられない、一種独特な雰囲気があります。

江戸時代の一大風俗街、吉原で使われていたのが廓言葉です。しかし、なんせ江戸時代は250年以上も続いたので、時代によって廓詞も変化していきました。

また、廓言葉といえば「~でありんす」が有名ですが、妓楼(みせ)によっても言葉遣いに違いがあり、松葉屋では「~でおす」、丁字屋では「~ざんす」、扇屋では「~だんす」が使われ、それがまたその妓楼の特徴にもなっていました。

廓言葉は、男女の恋の駆け引きのツールですので、元気いっぱい大声で話しては興醒めです。愛嬌があって艶っぽく、かつ品を感じさせる廓言葉、恋人や気になる相手に囁いてみるのもいいかもしれません。

また、廓言葉には隠語も多いので、仲間内での会話に使ってみたい気もします。ただし、もともとは性を売り物にする場所で使われていた言葉なので、あからさまな廓言葉を、真面目な席や、年配者、頭の固い人に使うのはNGです。

そもそも「廓言葉(くるわことば)」とは?

「廓」とは、もともとは曲輪と書き、砦や城の周りに、ぐるりとめぐらせた土や石の塀を意味していましたが、狭義においては、遊女屋を意味します。

江戸時代、各地に廓(風俗街)がありましたが、なかでも、幕府公認の江戸の吉原、京都の島原、大阪の新町は、三大遊廓とも呼ばれる一大歓楽街でした。廓言葉は、それらの遊女屋、遊廓で遊女たちが使っていていた特殊な話し言葉で、一種の方言ともいえます。

太夫も、花魁も、新造も禿も、遊廓に囚われた女性は皆、客の前では廓言葉を使っていました。

廓言葉は、「里言葉(詞)」とも呼ばれます。妓楼ごとに言葉に特徴があるように、廓ごとにも言葉に違いがありました。

吉原の廓言葉は、「花魁言葉(詞)」「ありんす言葉(詞)」とも呼ばれました。吉原の廓言葉は、当時旗本の若武者やその仲間たちが好んで使っていた、六法詞(ろっぽうことば)と呼ばれる、荒っぽい関東訛りの方言に、島原の廓言葉(詞)を取り入れたものだと言われています。

ちなみに、吉原遊廓のことを「ありんす国」と言っていましたが、「ありんす言葉(詞)」という言い方は、江戸時代には一般的ではなく、明治時代になって広まったと考えられています。

太夫・花魁・遊女とは

太夫(たゆう)、花魁(おいらん)は、いずれも遊廓の遊女の地位をあらわしています。遊女とは、性を含むサービスを提供する女性、いわゆる娼婦です。

太夫は「五位」の階級にあたります。もともと「太夫」は能楽用語で、諸芸に優れた芸能者に与えられる、最高位の称号でしたが、やがて、美貌と教養、芸能に秀でた最高級の遊女にも転用されるようになりました。

太夫の名称は、吉原では徐々に使われなくなりましたが、京都ではその呼び名が長く残りました。

花魁は、吉原での高級遊女の総称です。廓に売られてきたばかりの幼女は、年長の遊女に付いてしきたりや礼儀作法を学ぶのですが、幼女らが自分の先輩格の遊女を、「おいらが所の姉さん」と呼んだことが、「花魁」の由来です。

「おいらん」は、花に先駆けるほど美しいという意味で「花魁」という字を当てました。人をだますキツネやタヌキには尻尾がありますが、手練手管で男を虜にする遊女には必要ないとの意味から、「尾不要」の字を当てたり、「老乱」と書いたりもしますが、これは江戸庶民の悪ふざけです。

遊女はいくつもの階級に分けられており、部屋持ち以上が高級遊女、その下に中級女郎の格子女郎、散茶女郎などがおり、その下に部屋の片隅で日に何人もの客を取らされる局女郎(端女郎)がいました。

明暦の大火以前の元吉原には、およそ1000人の遊女がいたとされていますが、最下層の端女郎が90%を占めており、花魁はほんの一握りでした。

花魁の中にも、呼び出し花魁、昼三、座敷持ち、部屋持ちなど、さまざまな階級があり、道中を行う呼び出し花魁ともなると、会うだけで半年以上待たされる場合もありました。

花魁や遊女が廓言葉を使う理由

遊女になるのは、多くが貧しさゆえに売られた地方出身の幼女でした。借金のかたに売られた女性もいましたし、中には、人さらいにさらわれてきた少女や女性もいました。当時は、郷が違えば言葉も違い、江戸の人間と、地方の人間とでは言葉が通じないこともありました。

そこで、田舎臭い方言を隠す目的とともに、共通語としての廓言葉が生まれたわけですが、遊女が廓言葉を使う理由はそれだけではありません。

遊廓は、性を売り物にする施設ですが、江戸時代は、性に対する考え方が現代よりずっとオープンで、吉原をはじめとする大遊廓は、さまざまな文化、芸能、流行の発信地となっており、現代でいえば、アミューズメントパークの一面を担っていました。

遊廓は夢の世界、遊女は、色だけではなく、芸や教養と夢を売る存在として、江戸の文化の発展に大いに貢献していたのです。言い換えれば遊女は夢の国のキャスト、役者のようなものなので、現実離れしているほうが都合がよかったのです。

さらに花魁は、類まれな美貌と教養と諸芸で、客に現実では手の届かない高貴な女性との恋愛の夢を見させる存在でなくてはなりませんでした。これが、遊女が特殊な廓言葉を使っていたもう一つの理由です。

廓言葉を現代の言葉に変換

ドラマや映画で耳にする廓言葉。何となく意味が分かる言葉もあれば、何のことだかさっぱりわからない言葉もあります。廓言葉を現代の言葉に変換してみましょう。

1.~ありんす・~ござりんす

廓言葉は、「ま」が「ん」に置き換わるという特徴があります。「あります」は「ありんす」に、「ござります」は「ごさりんす」という具合です。時代が下ると「ん」ではなく、「い」に変わる場合もあり、「ありいす」「ござりいす」とも言いました。

つまり、「~ありんす」は、「~あります」、「~ござりんす」は、「ございます」という意味です。

2.あちき・わちき・わっち

田舎の子供の多くは、自分のことを「おら」とか「おいら」と呼んでいましたが、着飾った遊女が「おら」や「おいら」など、田舎臭い言葉で自分を呼んだのでは客は興醒めです。

そこで、遊女は自分のことを「あちき」「わちき」「わっち」と呼ぶように、厳しくしつけられました。「わい」ということもあったようです。

「あちき」「わちき」「わっち」は、いずれも「私」という意味の一人称ですが、女性に限らず、廓で働く男性が使うこともありました。

3.~しておくんなんし

「~しておくんなんし」は、「~しておくんなまし」という廓言葉の変形です。より廓言葉らしく、「なまし」の「ま」が、「ん」に変化しています。「~してください」という意味です。

4.ござりんせん

「ござりんせん」は、「ごさりんす」の否定語です。「~ございません」という意味で、「ござりいせん」と言うこともありました。

5.いりんせん

「いりんせん」は、「いりません」の「ま」が「ん」に変化した廓言葉です。「いりいせん」と言うこともありました。「~せん」は、打消しの言葉です。

6.主さん

「主さん」は、「ぬしさん」と読みます。二人称の「あなた」に相当します。「主様」「お主」「主」と呼ぶこともありました。このほかには、「こなたさま」「かたさま」「貴様」「あのさん」「おまはん」「そもじ」なども、「あなた」の意味で使われていました。

7.ようざんす

「ようざんす」は、「いいですよ」という意味です。「よい」に丁寧語の「ざんす」が組み合わさった言葉です。「ざんす」も、「ざます」の「ま」が「ん」に変化していますので、「ようざます」と言うこともありました。

漫画の台詞などで、山の手の上品な奥様が「~ざます」と言ったりしますが、この廓言葉の「ざます」「ざんす」が由来です。

8.ほんざんす

「ほん」は、「本当に」の意味ですので、「ほんざんす」は、「本当です」「その通りです」という意味です。

9.おっせえす

「おっせえす」は、「言う」の尊敬語で、「おっしゃります」という意味です。

10.おさればえ

「おさればえ」は、別れの挨拶で、「さようなら」という意味です。

現代でも使われている廓言葉

私たちが日常的に使っている言葉の中にも、廓言葉に由来しているものがあります。あまりに普通に使っているので、「え、そうだったの?」と驚くかもしれません。

1.馴染み

花魁の客となるには、儀式やしきたりがあり、いきなり会うことはできませんでした。基本的には、「初会」に「裏」を返し、3回目でようやく客と認められました。それでも、花魁の気に入らなかったり、ご祝儀が少なかったりする客は、門前払いを食わされることもありました。

馴染みとは、花魁に限らずとも、同じ遊女のもとに何度も通い、親密な関係になった客と遊女のことを言います。馴染みになると、浮気は許されず、ほかの遊女を買うことはおろか、ほかの妓楼に行くこともご法度でした。

2.モテる

下級女郎はさておき、花魁ともなると簡単には客をもてなしたりはしません。花魁にもてなされるのは、見目がよかったり、裕福だったり、心根がよかったりと、それなりの魅力がある客に限られていました。

現代でも、異性に人気があることを「モテる」と言いますが、遊廓で遊女に「もてなされる」というのが、その語源です。

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3.野暮

「野暮」とは、田舎者という意味ですが、センスがない、教養がない、面白味がない男性も、野暮と呼ばれました。いくらお金持ちでも「野暮」な客は花魁からは嫌われ、「馴染み」になることはできませんでした。

4.猿(エテ)

客商売に「去る」は縁起が悪い言葉です。そこで、遊廓では「猿」も「サル」とは呼ばず、代わりに「得て(エテ)」と呼んでいました。その名残で、現代でも「猿」のことを「エテ公」と言ったり、相手を見下して「エテ公」と呼んだりします。

5.あがり

寿司屋でお茶のことを「あがり」と言いますが、その由来も廓言葉にあります。遊廓では、人気がなくお客がつかない遊女は、臼でお茶を挽かされていたことから、「お茶」も縁起が良く無い言葉でした。

そこで、遊廓では、客の帰り際に出すお茶を「お上がり花」と言っていましたが、そこから「お茶」のことを「あがり」と言うようになりました。

ちなみに、「お茶を挽く」「お茶挽き」は、今でも「暇を持て余す」という意味で使われています。

現代では意味が違う廓言葉

廓言葉の中には、現代とは違う意味で使われていた言葉もあります。現代とは違う意味で使われていた廓言葉の一部をご紹介します。

1.七夕

七夕は、織姫と彦星が年に一度会うことができるロマンティックな日ですが、遊廓で「七夕」と言えば、バタバタと足音やかましく廊下を行き来する騒々しい客のことです。

2.むく鳥

田舎から大勢でやってきて騒ぐ客のことをむく鳥(無垢鳥)と言いました。群れて騒々しい様子が、椋鳥を連想させたのでしょう。

3.天道

現代では「てんとう」と読めば、「天地を支配する神」「太陽」を意味し、「てんどう」と読めば、「天地の理」「天体の運行」を意味しますが、廓言葉では、「誓いの言葉」を意味します。「神に誓って」という意味で使われていたようです。

【番外編】遊女が使っていた隠語

性を商いにする以上、廓言葉には隠語もたくさんありました。遊女たちが使っていた隠語もご紹介します。

おさしみ

口と口を合わせることから「呂の字」とも言いましたが、「おさしみ」とは「キス」のことです。花魁ともなると本当に好きな客にしかキスはしなかったので、高級な「刺身」にたとえたと思われます。

役所

見世のことです。

塩次郎

「えんじろう」と読みます。自惚れ屋で嫌味ったらしい客のことです。自慢話ばかりしている客は、遊女たちに陰で「塩次郎」と呼ばれて嗤われていました。

廓言葉の魅力

遊廓は苦界ともいうように、そこに囚われた女性にとって、決して幸せな場所ではありませんでした。5~6歳で廓に売られた場合、年季は平均20年でした。

年季が明けるか身請けされるかするまでは、敷地の中から出ることは許されず、過酷な労働や病気で命を落とす遊女も、少なくはありませんでした。

でも、これと見込まれた幼女は、禿(かむろ)のころからさまざまな芸事や教養を仕込まれ、大名の姫君にも劣らない美姫に育て上げられ、太夫や花魁として、人々を魅了しました。

そんな高級遊女たちは、美貌や知識だけでなく、話術や気配りにも長け、理想の女性像として世の人々の憧れの対象でもありました。夢のような世界に住む究極の女性、それが太夫や花魁です。

廓言葉は、女性として完璧な太夫や花魁を連想させ、日常や現実を忘れさせます。人の心を惹きつけて離さない、太夫や花魁が使っていた廓言葉は、女性を最も魅力的に、可愛らしく見せる言葉なのかもしれません。

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