ウマバエ(ヒトヒフバエ)は日本が生息地?寄生された症状や治療方法
ウマバエ(ヒトヒフバエ)は幼虫が人間や動物に寄生するという恐ろしい昆虫です。そんな、日本ではあまり馴染みのないウマバエ(ヒトヒフバエ)の生息地や特徴、寄生された時の痛みや症状、さらに除去する方法や治療する方法などをご紹介します。
目次
ウマバエ(ヒトヒフバエ)とは?
ウマバエ(ヒトヒフバエ)は、ハエ目(双翅目)の中のヒツジバエ科に属している虫です。しかし厳密にいうと、ウマバエとヒトヒフバエは異なる種類のハエです。その名のとおり、ウマバエは主に馬に寄生し、ヒトヒフバエは主に人間に寄生します。ただ生態は非常に似ているため、両種まとめて「ウマバエ」と呼ばれることもあります。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)の生息地や特徴
この恐ろしいハエはいったいどこに生息しているのでしょうか。また、その特徴はどのようなものなのでしょうか。ここから生息地や生態について、詳しく見ていきましょう。
生息地
ウマバエの主な生息地は、中央アメリカや南アメリカなどの熱帯地域です。種類によっては、東南アジアやアフリカといった地域にも生息しています。また、日本でもアカウマバエ、ムネアカウマバエ、アトアカウマバエといった種類のウマバエの生息が確認されています。
ヒトヒフバエも同様に熱帯を好み、主に中南米(メキシコ、ブラジル、ペルー、チリ、アルゼンチンなど)を生息地としています。こちらは、日本での生息は確認できていません。日本の冬は寒いので、暖かさを好むヒトヒフバエは対応できず、定着していないと考えられています。
特徴
ウマバエ(ヒトヒフバエ)には、見た目にも生態にも、ほかのハエとは違った特徴があります。それぞれの面から詳しく紹介していきましょう。
大きさ・色
種類によって異なりますが、成虫になるとおよそ12~17mmの大きさになります。この大きさは、ハエの中では比較的大型のものに当てはまります。
体の色は黄褐色や赤褐色で、表面は同じく黄色や赤色の柔らかい毛に覆われています。一見すると、ハナアブやハチにも似ています。
生態的な特徴
ハエは、翅と胸の間に麟弁(りんべん)と呼ばれる膜状の突起を持っています。ウマバエも同様に麟弁を持っていますが、とても小さいものです。また口器も退化しているため、成虫は食物をとることができません。そのために長く生きられず、寿命が短いのです。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)の寄生手段
寄生虫の中には、口や耳などから直接動物の体内に侵入する種類もいます。しかし、ウマバエ(ヒトヒフバエ)の寄生は、それらの虫とは少し変わっています。いったいどのように寄生するのか、詳しく説明していきます。
動物へ寄生する方法
ウマバエは、動物の体に直接卵を産み付けることで寄生します。前脚や膝など、毛づくろいのために舐める場所に産み付けることが多いですが、喉や鼻の中などに直接産み付けることもあります。
最終的に卵に唾液が付くことで孵化し、そこから幼虫が体内に侵入するのです。
ウマバエの幼虫は体内に侵入すると、まず馬の歯ぐきに寄生します。そこで2度脱皮し、今度は胃に寄生します。胃に寄生したウマバエの幼虫は再度脱皮し、そこから直腸に移動します。
このように、組織内で脱皮・成長を繰り返すことで、寄生された動物の体内では炎症が起こり、その結果組織が腐食したり、潰瘍が生じるケースもあるのです。
最終的に十分に成長したウマバエの幼虫は、寄生した動物の糞とともに直腸から排泄されます。その後は地中に潜って蛹(さなぎ)になり、羽化した後はまた動物に卵を産み付けるのです。
人間へ寄生する方法
人間への寄生は、動物とは異なった方法で行われます。動物へ寄生する時のように直接卵を産み付けるのではなく、蚊や、サシバエという吸血性のハエなどを媒介するのです。
ヒトヒフバエは蚊やサシバエを見つけると、その体の表面に卵を産み付けます。そしてそれらの昆虫が、血を吸うために人間の皮膚に穴をあけると、孵化した幼虫はすかさずその穴から体内に侵入するのです。
ヒトヒフバエの幼虫が人間の体内に侵入するまでには、約1時間かかります。まんまと人間の体内に侵入した幼虫は、体組織を食べながら、1~3ヶ月ほどかけて成長していきます。
また、その過程で2度の脱皮を行います。最終的に直径が2mm、体長が5mmほどにまで大きくなり、黒のトゲが体の周りを囲むように生えた、気味の悪い姿になるのです。
このように体内で十分に成長したヒトヒフバエの幼虫は、侵入した穴から外へ出て行きます。外へ出た幼虫は、その後地中に潜って蛹(さなぎ)になり、羽化して成虫になります。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)が人間に寄生した場合の症状
ヒトヒフバエに寄生されると、幼虫が体内で肉を食べてしまうため、その部位が炎症を起こします。
しかし、寄生されてすぐは痛みなどの自覚症状もなく、寄生されたことに気が付きません。そこから幼虫が大きく成長して初めて、様々な症状が現れることになり、その症状によってようやく寄生された事に気が付くのです。
寄生されると、人によっては激しい痒みやじりじりと焼けるような痛みなどが出るようですが、ほとんどの場合は、痛みがあるといっても少しうずく程度で済みます。見た目とは裏腹に、ヒトヒフバエの寄生はそれほど深刻ではないのです。
ハエ幼虫症とは?
ハエ幼虫症とは、ハエが寄生したことによって引き起こされる疾患のことを指します。また、これらは蝿蛆症(ようそしょう)とも言われます。
節足動物の双翅目に属する100以上の種がこの疾病を引き起こす可能性をもっています。その中でも人間への寄生は、ヒトヒフバエ・ヒトクイバエという種類によって起こります。
症例は多くの国で確認されていますが、やはりハエの中心的な生息地である、熱帯地方や亜熱帯地方での発生が非常に多いです。
蝿蛆症の症状は、寄生された部位によって異なります。一般的に見られる症状は、寄生部位の炎症です。これに伴い、痛みや痒みなどの症状がみられる場合も多いようです。また、皮膚の下を何かがもぞもぞ動く感覚があったり、分泌腺が腫れる、といった症状も確認されています。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)の幼虫によって引き起こされる蝿蛆症には、いくつかのタイプがあります。以下、それぞれのタイプについて解説していきます。
タイプ①:せつ性蝿蛆症
このタイプの症状を引き起こすハエは、中南米やサハラ以南のアフリカ、および熱帯アフリカが生息地の種類です。この種類のハエの多くは、人間に直接卵を産み付けることはありません。蚊などの他の虫や、干している洗濯物などに卵を産み付け、それが人間の皮膚に接触することで寄生するのです。
主な症状として見られるのは、かゆみ、皮膚の下でもぞもぞと動く感覚ですが、時に鋭く刺すような痛みを伴うこともあります。
寄生されてすぐは、よくある虫さされや吹き出ものに似ており、小さな赤い隆起が生じます。時間がたつとその隆起が大きくなり、中心部に小さな穴が見えることもあります。その穴からは、透明な黄色の液体が出てきたり、幼虫がごく一部見えることもあります。
タイプ②:創傷蝿蛆症
開いた傷口があると、そこから直接ハエの幼虫が寄生することもあります。傷口を治療することのできない、社会的に貧しい地域で多く見られるタイプです。
また、このタイプでは、口や鼻、眼を覆う粘膜組織にも寄生することがあります。つまり、傷口のような壊死した組織だけでなく、健康な組織にも入り込むのです。
このタイプにおける症状も、痛み・痒み・圧痛が一般的です。
タイプ③:移行性蝿蛆症
これは、通常は馬や牛に寄生する種類のハエが原因で引き起こされる症状です。寄生された馬や牛と接触することで、人間にも寄生することがあるのです。
また、それほど多いケースではないですが、ハエが直接人間に卵を産み付けることもあります。幼虫は一か所にとどまらず、皮膚の下に潜り込みます。症状はかゆみが中心です。
タイプ④:眼蝿蛆症
眼に発生するタイプです。症状としては、充血・痛み・瞼の腫れ・過度の涙などが見られます。また、眼の中に異物感が現れます。
タイプ⑤:鼻咽頭蝿蛆症
主な症状として、鼻からの出血・鼻の中の異物感・頭痛・顔の痛みなどが現れます。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)が人間に寄生した場合の治療法・除去方法
ヒトヒフバエの幼虫は、病院で摘出治療を受けずとも、寄生してから6~8週間で自ら皮膚を破って外へ出ていくことがあります。
しかし、やっかいなのは、鼻咽頭、眼、耳道、泌尿生殖器、腸管などに棲みついてしまった場合です。こうなると、蝿蛆症の症状が深刻になるだけでなく、幼虫の除去も簡単ではなくなります。
では、寄生したヒトヒフバエはどのように除去すればよいのでしょうか。わたしたちでも簡単に摘出できるのでしょうか。実際の治療法、摘出法を見ていきましょう。
どうやって幼虫を摘出するの?
ヒトヒフバエの幼虫に寄生された場合、早く除去しようと自分で幼虫を絞り出したり、引き抜いて摘出しようとしてはいけません。初めに説明した通り、幼虫の体には数多くのトゲがあります。
さらに体がくの字に曲がっているため、無理に摘出しようとすると、途中で幼虫の体がちぎれてしまい、完全に除去できなくなる可能性が高いのです。
また、幼虫は成長すると言えども、5mm程度の大きさです。傷口を切開する際に幼虫を切り刻んでしまったり、摘出する時に潰してしまったりする可能性があります。そうなると、幼虫の体液が人間の血液に混入してしまい、アナフィラキシーショックを引き起こしてしまう可能性が高いのです。
この症状は、ご存じのとおり死に繋がる可能性があります。幼虫の除去程度で死ぬことにならないよう、摘出時は注意が必要です。
一般的には、幼虫に寄生されてしまったら、医療機関で傷口を切開して摘出するのが最適な治療法です。しかし、この摘出治療以外の方法でも、幼虫を除去することができるようです。
それが、幼虫が入り込んだ穴をふさぐ方法です。幼虫も、生きるためには酸素が必要となるので、体内に侵入する時に使った穴から呼吸をしています。
そのため、その穴に軟膏などを塗って塞いでしまうと、呼吸ができなくなって這い出てくるのです。そこをピンセットでつまみ出すことで、除去することができるのです。医療機関での切開摘出に抵抗がある方は、この治療法を試してみるのも良いかもしれません。
除去する時に痛みはあるの?
摘出時に痛みを伴う、といった事例は特に見られません。病院での摘出治療を受けるのであれば、寄生された箇所の切開に伴って痛みを感じることもあるでしょうが、基本的には安心して摘出治療を受けられそうです。
除去した後はどうなるの?
1つの穴に数匹程度の寄生であれは、摘出後はニキビ跡のようなものが残るだけです。
しかし、集団で一か所に寄生されていた場合は、幼虫がその部分の皮下組織そのものを食い荒らしてしまうので、大きく穴が開いた状態になってしまいます。そうなると、最悪の場合は皮膚移植などの治療が必要になるケースもあります。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)と日本
はじめに述べた通り、人間に寄生するヒトヒフバエは、現在日本には生息していません。
ただし、ウマバエ・アカウマバエ・ムネアカウマバエ・アトアカウマバエ・ウシバエ・ヒツジバエといった動物に寄生する種類は、日本を生息地の1つとしています。
日本人への寄生例はあるの?
ヒトヒフバエが日本に生息していないのは、日本の寒さがヒトヒフバエの生息地として適していないからです。そのため、基本的に日本にいれば、幼虫に寄生されることもありません。
ただし、ヒトヒフバエの生息地である中南米などに旅行し、そこで寄生され、日本に帰国してからそれに気が付く、というケースもあります。
日本での被害報告数は、2007年までに34件のみで、件数としては少ないです。しかし、日本人の海外旅行者数は年々増加しており、それに伴って寄生される日本人も増えているようです。
日本のこれから
近年の環境汚染は深刻な問題です。中でも地球温暖化の影響は大きく、近い将来、現在からは想像できない環境の変化が起こる可能性はゼロではありません。
そうなると、本来は温暖な地域を生息地とする蚊やサシバエが日本に定着し、それらがヒトヒフバエ寄生の媒介者になる可能性があるのです。そうなると、ここまで書いてきたことが、実際に日本でも起こり得るのです。
ましてや現在は、日本に限らず国際化の時代です。ヒトヒフバエによるハエ幼虫症は、輸入寄生虫の症例として、この先どんどん増えていく可能性があることを覚悟しておいたほうが良いかもしれません。
ウマバエ(ヒトヒフバエ)に関する正しい知識を身につけよう
いかがでしたか。ヒトヒフバエに寄生されると、個人差はあれど痛みや痒みなどの症状に見舞われることになります。幼虫は比較的簡単に除去できますが、症状によっては皮膚移植などの治療が必要になる場合もあります。たかが5mm程度の幼虫が、これだけの影響力を持つのです。
現在の日本では、ウマバエ(ヒトヒフバエ)の脅威にさらされることはありません。
しかし、近年の急速な環境変化によって、ウマバエ(ヒトヒフバエ)による寄生は、もはや遠い国での出来事ではなくなるでしょう。来るべき日本の将来のために、いまから正しい知識を身につけておく必要がありそうです。