背徳的(はいとくてき)の意味とは？例文や使い方を紹介

政治家や有名人のスキャンダルが表ざたになると、「背徳的でけしからん」と、怒りをあらわにしている人をよく見かけます。「そうだその通り」と快哉を叫びつつ、「背徳的」とはどういう意味？と首をかしげている人も多いかもしれません。

漠然と良くないこと、と理解している人がほとんどでしょうが、ただの悪事と違って、「背徳的」には、人間としての本質的な性質を問うような意味合いがあります。

つまり、「背徳的」という言葉には、法律的には問題はないけれど、人としては許されないという意味が含まれています。「背徳的」とはどういうことなのか、順を追って考えていきましょう。

「背徳的」と聞いて、ポジティブで健全な印象をもつ人はほとんどいません。常に眉をひそめるようにして口にされる「背徳的」という言葉。でも、どこか耽美な響きがあり、好奇心をくすぐられます。

「背徳的」は、「はいとくてき」と読みます。常用漢字ではありませんが、「もとる、そむく」という意味をもつ「悖」の字を当てて、「悖徳的」と表すこともあります。

なんとなくあまり良い意味ではないということはわかりますが、実際に背徳的とはどう意味なのでしょうか。

「背徳的」とは、読んで字のごとく、「道徳」に「背く」という意味の「背徳」に、「～のような」という意味をあらわす接尾語の「的」をつけた言葉です。

つまり、「背徳的」とは、「道徳に背く、人の道を外れる、人としてあってはならないこと」という意味です。

道徳に背くという意味では、「不道徳的]、「反道徳的」という言葉が、最も背徳的に近い言葉といえます。また、神に背く、神の教えに背くという意味の「冒涜的」、「背信的」という言葉も、広い意味で「背徳的」と同じ意味を持ちます。

人間としてのモラルに反するという意味では、「非倫理的」、「人倫にもとる」、「人倫に反する」と言い換えることもできます。英語でいえば「インモラル(immoral）」です。

「非常識的」、「不健全」、「不埒」、「反社会的」、「不品行」、「破廉恥」なども、人として問題があるという意味なので類義語といえます。

背徳の反対語は道徳ですので、背徳的の反対語は、人としての規範を守るという意味の「道徳的」、「同義的」、常識をわきまえているという意味の「常識的」、人間としての行いが正しい「品行方正」などが考えられます。「良心的」、「倫理的」などもほぼ同じ意味です。

背徳的という言葉を、「ふしだら」や「だらしない」と広い意味に捉えた場合は、「清潔」、「真面目」、「模範的」、「節度がある」なども反対語として挙げられます。

背徳的という言葉には、「非道」、「悪辣」という意味も含まれているので、「人道的」、「善良」も反対語ととらえて問題ありません。

類義語や反対語を調べてみると、背徳的とは、あまり褒められた意味の言葉ではないということがよくわかります。それでも世の中には、背徳的な物や背徳的な行為に惹かれ、自ら実践してしまう人が少なくありません。

いけないとわかっているはずなのに、背徳的な行為をしてしまう人の心理とは、どのようなものなのであしょうか。

常にみんなのお手本で、品行方正な優等生が、突如思いもよらぬ背徳的な行動を起こしたら、それは深層心理に潜む、本音が暴走したのかもしれません。

人間は誰でも、外面の自分と、内面の自分を持っていて、内に潜む本当の自分を解放したいという心理的欲求を持っています。ほとんどの人は、そうした欲求を上手に開放して折り合いをつけていますが、中には、心理的に追い詰められてしまう人もいます。

完璧主義で生真面目な人は、本当の自分はそうではないと、心理的に追い詰められた結果、反動で極端に背徳的な行動に出てしまうことがあります。

他人から見てどう考えても背徳的と思える行為を、何のためらいもなく平然と行う人もいます。そういう人は、一般的な道徳観念が身に備わっていません。

心理的には悪いことはしていないつもりなので、なぜ白い目で見られるのかわからないと、戸惑ったり、憤ったりしています。

何度も繰り返して諫められるうちに、どうやら背徳的なことらしいと見当はつき始めますが、自分の中では恥ずべきことと納得できていないので、また同じことを繰り返してしまうこともよくあります。

心理的に不満がある場合、何か他のことでその隙間を埋めようとします。背徳的な行為は、スリルと、大げさにいえば世間を欺いているという優越感を得られるので、心理的に満たされたいと思ったときに、手っ取り早く満足感が得られる方法でもあります。

「誰かに見つかったらどうしよう」とドキドキする経験は、人間の心理にある種の快感を与えます。背徳的極まりない万引きに夢中になってしまう人がいるのも、スリルから得られた快感が忘れられないからです。

日本の昔話、『鶴の恩返し』や『雪女』、『浦島太郎』を例に出すまでもなく、ダメといわれると余計に気になってしまう、といった天邪鬼な心理は誰にでもあります。

背徳的な行為も、品行方正な人たちが目くじらを立てれば立てるほど、周りの人に反対されればされるほど好奇心が煽られ、つい手を出したくなってしまいます。

ドラッグなどに手を染める発端の多くも、怖いもの見たさ、ちょっとした好奇心です。背徳的な行為には、人間を心理的に惹きつけてやまない、悪魔的な魅力があり、それに魅入られてしまうと簡単には抜け出すことができません。

ストレスの発散のため、気持ちのおもむくままに、ドキドキするため、好奇心を満たすためなど、背徳的なことをしてしまう心理はさまざまですが、誰の心の中にも背徳的なことに惹かれる想いが潜んでいることが分かります。

では、人に言えない、バレたら後ろ指を指されるような、背徳的な行為とは、具体的にどのようなことをいうのでしょうか。

「不倫は文化だ」と言った芸能人もいましたし、伝統芸能の世界では、「色恋は芸の肥やし」とも言います。不倫や浮気をテーマにしたドラマや映画、小説もたくさんあります。不倫や浮気も恋愛の内とうそぶく人もいます。

ダブル不倫ならお互い様とか、浮気も一度や二度なら、もしくはバレなければなど、不倫や浮気は背徳的とは言えないと考える人もいるかもしれません。でも、不倫や浮気は、大切な人を裏切る行為であり、人の道に背くことであることは間違いありません。

不倫や浮気の相手が隣人や同僚、親戚など、身近な人であればあるほど、パートナーである相手を深く傷つけ、周りにも迷惑をかけるので、背徳感は高まります。

近親相姦に当たる相手とは、三親等以内の血縁者のことを指します。具体的には、本人から見て兄弟姉妹、両親、祖父母、曾祖父母、孫、曾孫、伯父母、叔父母、甥、姪です。

英語では近親相姦をインセストといい、近親相姦を禁忌とすることを、インセストタブーといいます。しかし、世界中にはインセストタブーを持たない国や地域もあり、近親相姦そのものを背徳的としない考え方もあります。

日本は、民法では近親婚を禁止していますが、近親者同士の性行為自体は罰則がありません。もちろん、18歳未満の子どもを相手にしたり、成人であっても、相手に暴力や脅迫、心理的圧迫を用いて関係を結ぶことは、立派な犯罪で、背徳的どころの話ではありません。

近親相姦とはあくまで、合意の上での近親者同士の恋愛で、大っぴらに認められてはいませんが、刑法上は問題ありません。しかし、例え性行為を伴わなくても、日本においては、倫理的な観点から、近親者相手に恋愛感情を抱くことは、背徳的とみなされます。

教師と生徒の恋愛は、双方に同意があれば、何ら問題はありません。世の中には、元教師と教え子のカップルや夫婦はたくさんいます。

しかし、教師と生徒はあくまで、教え導く者と習い学ぶ者の関係であって、男女という対等の関係になることはタブー視されるので、相手が在学中である場合は背徳的といわざるを得ません。周りに示しがつかないという点においても背徳的と考えられます。

また、双方の同意があっても、相手が18歳未満で性交渉を伴う恋愛の場合は、罰則も設けられており、社会通念上も背徳的行為です。

人として最も犯してはならない犯罪の一つが性的虐待です。例え夫婦であっても、恋人同士であっても、相手の合意のない性行為は全て性的虐待です。

背徳的な行為の中には、倫理的、道徳的に問題があるだけで、法律上罰則のないことも多いですが、性的虐待は、厳罰に処すべき劣悪な犯罪です。背徳的という言葉だけではくくり切れない、反社会的、非人道的な行為で、決して容認すべきではありません。

眉をひそめたくなるような物や行為、非常識だと糾弾したくなるような物や行為のことを背徳的といいます。世の中には背徳的な物や行為が溢れていますが、実際に口に出していて背徳的という言葉を使ってみたことがある人は多くないかもしれません。

背徳的という言葉は、どのような使い方をするのでしょうか。会話や文章の中での背徳的という言葉の使い方を、例文を挙げてご紹介します。

近親者を相手にした禁断の恋愛を描いた映画などについて、例文として、「あまりに背徳的なシーンが多いので、公開が見送られた」ということが考えられます。いくら芸術的に価値があっても、インモラルな作品は、世間には受け入れられにくいです。

反対に、例文として、「背徳感が漂う心理描写が秀逸で、危うい魅力を醸し出している」という使い方で、高い評価を受ける作品もあります。背徳的な要素が受け入れられるか、拒絶されるかは時代の流れによるところも大きいです。

その場にいない相手に対する会話では、「あの人は仕事も長続きせず、自堕落で背徳的よね」とか、「あの人の無鉄砲な生き方は、背徳的だけど自由で刺激的だ」といった正反対の使い方をします。

例文のように、背徳的なことを、不埒で無責任なこととらえるか、反対にスリリングで魅力的なことととらえるかで使い方は変わってきます。

先にも述べた通り、近親者を相手にした恋愛は、推奨こそされていませんが、法律で禁止されているわけではありません。

使い方としては、「兄(弟姉妹）との恋愛が背徳的だなんて誰が決めた。世界には近親者との恋愛を認めている国だってあるのに」というものが考えられますが、倫理的な観点からは、やはり背徳的といわれるのは間違いありません。

例文のような使い方で主張しても、日本ではタブーだからと一蹴されるのが関の山です。

1968年10月5日に起こった、尊属殺人。14歳のときに実父に強姦され、それ以来27歳になるまで性行為を強要され続けた女性が、実父を殺害したセンセーショナルな事件です。

この女性に対する第三審の判決文を例分に挙げると、実父が未成年の子どもに対し、長年にわたり性行為を強要してきたのは、「近代における文明社会の道徳的倫理規定に照らし合わせると、許しがたい背徳行為である」という使い方をしています。

尊属殺人は厳罰が原則ですが、「許しがたい背徳行為」の対象となった女性の情状を酌量し、刑は減刑されました。

かつては同性愛も背徳的といわれましたが、同性同士の婚姻を法的に認めている国もありますし、日本でも自治体によっては同性同士の事実婚を認めています。

カトリック教会は、同性愛を認めていませんから、その観点からいえば、同性愛は依然として背徳的ということになるのでしょうが、世間の見方は違います。背徳的とのレッテルを貼ってマイノリティを排除することは、もはや世界の常識ではありません。

人として何が正しく、何が間違っているのか、その解釈は時代によって変わります。ましてやLGBTは同性愛者のみを指す言葉ではりませんから、LGBTというだけで背徳的と決めつけるのは間違っています。

危険だけどちょっと覗いてみたくなる背徳的な行為や生活、文学や芸術の世界ではよく取り上げられるテーマです。いけないものに惹かれ、反対されると燃え上がるのは、人間の性かもしれません。

ドキドキヒリヒリするような、背徳的な世界を描いたドラマや映画に夢中になった人は少なくありません。背徳的なシーンやストーリーが話題となった名作をご紹介します。

高校教師と女子生徒の純愛物語ですが、近親相姦あり、教師によるレイプありと背徳的なテーマを多く含み、物議をかもした問題作です。

家族が不在中に中年の主婦が行きずりの男性と恋に落ちる、数日間の恋愛物語です。ドロドロした不倫の薄汚さを感じさせない大人の純愛ドラマとして、世界中で大ヒットしました。

夫が不在の昼間に不倫を重ねる人妻を描いた昼ドラマ。不倫妻を「昼外妻」と呼ぶ流行語を生み出したり、続編として映画が作成されるなど、社会現象となりました。

不健全と後ろ指を指される背徳的な行為ですが、何一つ後ろ暗いところがない健全な人生というのも窮屈です。聖職者のように、一切の欲望とは無縁の生活を送ることができる人がどれくらいいるでしょうか。

模範的な良い人が、抑圧から逃れるために背徳的な行為に走ってしまうことがあるように、四角四面に規律を守っているばかりでは、心理的に参ってしまいます。どんな人にも、息抜きは必要です。

法に触れたり、他人を傷つけたり、道徳に反することばかりが背徳的な行為ではありません。あまり褒められたことではないし、大っぴらにするのは恥ずかしいけれど、ささやかな背徳的行為を楽しんでいる人は大勢います。

日の高い時間からお酒を飲んではいけないという法律はありませんが、明るいうちの飲酒は、ちょっと後ろめたく、背徳的なムードが漂います。人が働いている時間に飲酒することは、立派とは言い難いですが、目くじらを立てるほど不健全な行為でもありません。

誰の迷惑にもならない、昼間のお酒で背徳的な雰囲気を味わうことで、気晴らしになるのなら、たまにはやってみるのも悪くないのではないでしょうか。

ただし、仕事中や、車の運転の予定があるときは、絶対に飲酒してはいけません。悪くない背徳的な行為とは、法律に反しない、人や自分の命を危険にさらさないというのが、最低限のルールです。

ダメとわかっているのについ手が出るジャンクフード。食べてしまった後は、罪悪感からストレスを抱えがちですが、開き直って背徳的な喜びととらえると、反対にストレスの解消に役立ちます。

体重や体形が気になる人は、寝る前の間食やジャンクフードがダイエットの大敵だということは重々承知。健康の面からも、お勧めできません。だからこそ、寝る前の間食やジャンクフードには、背徳的な魅力があります。

毎日毎晩では身体を壊しますが、たまには羽目を外すのも精神衛生上は必要なことです。背徳的な行為でストレスを開放するコツは、後悔しないことです。やってしまったと落ち込むと、せっかくの背徳的な行為が水の泡になってしまいます。

実際に不倫や浮気をするとなると、相手が必要ですし、リスクも伴います。手軽に背徳的なムードを味わいたいなら、妄想が一番です。想像するだけなら、パートナーを傷つけることもありませんし、恋愛のお相手はよりどりみどりです。

どんなに背徳的なシチュエーションでも、手の届かないアイドルやスターが相手でも、願いは全部かないます。心理的には不倫や浮気をしているので、パートナーに対して後ろめたい気持ちになることもあるかもしれませんが、それもまた背徳感を高めます。

妄想の世界での不倫や浮気は、黙っていれば誰にもバレません。自分だけの秘密を持つことも、背徳感を楽しむ方法の一つです。

立ち入り禁止の場所は覗いてみたくなる、触るなと張り紙がしてあると触ってみたくなる、読むなといわれれば読んでみたくなる、人間とはそういう生き物です。強烈な悪や危険には身がすくみますが、ちょっとだけなら、試してみたいという好奇心を抑えきれません。

だからこそ、背徳的な行為は耽美で蠱惑的な魅力を放ち続け、有史以来背徳的な行為を題材にした、たくさんの文学や芸術が生まれています。社会の秩序を乱したり、人の心や身体に危害を及ぼさない限り、背徳的な行為は人生のスパイスになり得ます。

一点の曇りもない正直で真面目な人生もいいですが、軽い刺激のある秘密めいた人生もまた素敵かもしれません。